ネコミミ「亜紀ちゃんさ、ロボット掃除機買うならどうする?」
亜紀 「ええっ!? ロボット掃除機!? ワタシの掃除に何か至らない点でも……」
ネコミミ 「いや、そうじゃなくて」
亜紀 「ワタシに暇を出すんだァ! ルンバ風情のためにィ!」
ネコミミ 「そうじゃないんだってば! 誤解なんだって、亜紀ちゃん」
亜紀 「ひぃーん、ぐすっ……。誤解?」
ネコミミ 「何でキミはそうなるかね。もしもロボット掃除機……この際だからドラム式洗濯機でも何でもいいよ。最新式のスマート家電を買うとすれば、亜紀ちゃんならどう選ぶかねって訊こうとしたんじゃないか」
亜紀 「ああ、なんだ。そういうことですか」
ネコミミ 「なんだはこっちのセリフですよ。なんなんですかこの茶番は……」
亜紀 「ロボット掃除機を買うとするなら、インターネットでレビュー見たりしますね。電器屋さんに行って、店員さんに訊くかも知れません」
ネコミミ 「まぁ、そうだよね。じゃあ、冷蔵庫は?」
亜紀 「冷蔵庫ですか? 今うちにあるのはちょっと小さいですからね。もう一回り大きいのがいいなぁ」
ネコミミ 「亜紀ちゃんはロボット掃除機のことはまったく知らないからレビューを見たり、店員さんに訊いたりする。一方で冷蔵庫はいつも使い慣れているものが既にあるから不満点を改善できるものを欲しいと言う」
亜紀 「あたりまえのことじゃないですか」
ネコミミ 「基準(ベンチマーク)ってやつがあるか、そうでないかの違いだよね」
亜紀 「触ったことがないものは選びようがないということですね」
ネコミミ 「そういうこと。鉄道車両にもそういうことがある」
亜紀 「創業時に入れる電車?」
ネコミミ 「さもありなん。ただ今回は昭和30年代の高性能電車の話をしたい」
亜紀 「なるほど。家電を引き合いに出すならもっとE235系とか485系の話をした方が」
ネコミミ 「電子レンジも電気炊飯器も関係ない!」
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昭和20年代、鉄道車両の技術は破竹の勢いで進歩を遂げる。
小田急電鉄の線路上で行われた「相武台実験」は、台車の乗り心地向上と軽量化を促した。鉄道技術研究所にて編み出された吉峯法と電気抵抗線ひずみ計(ストレインゲージ)は、構体設計の合理化を実現した。外国で発明された技術をもとに東京芝浦電気と日立製作所は直角カルダン駆動を、三菱電機はWN駆動を、東洋電機製造は中空軸平行カルダンをそれぞれ国内向けに開発した。
その結果として、1952年にはモノコック構造を志向した構体を有する西日本鉄道313形が登場し、1953年には日本初のカルダン駆動車として京阪電気鉄道1800系と東武5720系が登場する。
やがてこの時期に生まれたカルダン駆動の電車は、旧来の電車と対比させて「高性能電車」と呼ばれるようになる。
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ネコミミ 「亜紀ちゃん、三大高性能電車って何だろう」
亜紀 「営団300形、東京急行5000系、阪神5001形ですか」
ネコミミ 「そのとおり。WN駆動と両開き扉、SMEEブレーキを引っ提げてサインカーブが華やかな営団300形。モノコック車体にインダイレクトマウント式台車、直角カルダン駆動の東京急行『青ガエル』。急行車の間を縫って高回転形モータをぶん回して加速する阪神『ジェットカー』。これらが三大高性能電車であることは疑いようもない」
亜紀 「中川浩一先生は小田急2200形だって……」
ネコミミ 「それはちょっと置いておいてください。とにかく、鉄道車両の技術が目覚ましく進歩した時期だったわけだ」
亜紀 「ちょうど今どきのスマート家電みたいなものですね」
ネコミミ 「そう、次々にいろいろな技術が出て来て、そのまま発展していくものもあれば、不具合多発で試用に終わるものもあったわけ。しかも規格は不統一でメーカごとにてんでばらばら。ユーザは仕様を定めようにも基準(ベンチマーク)がないから何もかもが手探り……」
亜紀 「ちょっとした混乱期ですか」
ネコミミ 「そこで、ユーザが中心となってある程度の標準仕様というものを定めることにした。時は1953年、私鉄経営者協会は電車改善連合委員会というユーザ側の車両担当者から成る部会を設立する。もちろん協力という形でメーカも参加すしていた。1954年、この部会は『電気鉄道車両用標準主電動機仕様書』と『電気鉄道車両用標準台車仕様書』を制定、更に翌年1955年には『電気鉄道車両用標準車体仕様書』を制定する」
亜紀 「ああ、聞いたことがあります。いわゆる私鉄経協標準電車というやつですね。でも企画倒れに終わったのでは?」
ネコミミ 「それは一面の話でしかなくて、たしかに標準車体は普及したとは言い難いね。だけれど、主電動機や台車の仕様は一定の成功を収めたと考えてもよろしいよ。たとえば主電動機であれば、一時間定格出力は55 kW、75 kW、110 kWの3種類から選びましょうとか書いてある。このとき定格回転数は1,600 rpmと2,000 rpmを選択できる」
亜紀 「75 kWとか110 kWとかいずれもこの時代の電車でよく聞く値ですね」
ネコミミ 「そうそう、それぞれ馬力に変換すると75 HP、100 HP、150 HPだ」
亜紀 「そうか、富山地鉄の形式」
ネコミミ 「ああ、確かに。そっちと紐づけて説明すればよかったね。それから台車は、平行カルダン駆動の場合は軸距を2,100 mmにしようとか、直角カルダン駆動の場合は軸距を2,200 mmないし2,400 mmにしようとか書いてある」
亜紀 「台車の軸距寸法としてよく見る2,100 mmってここから来てたんですか」
ネコミミ 「とにかく、このような形で私鉄経協の標準仕様は浸透している。実際、昭和30年代の私鉄向け電車のパンフレットを読むと、標準仕様に則っていますと書いてあることが結構多い」
亜紀 「私鉄電車ってどうしても事業者ごとに縦割りで語られがちで、横通しした見方がされないので気づきませんでしたね」
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昭和30年代、日本車輌製造は全国の有力地方私鉄に向けて2扉クロスシートのロマンスカーを供給する。
優美な湘南形の前頭部、広々とした印象の田の字形の側窓、落ち着いた雰囲気を醸し出す深い屋根など、その特徴的な外観から、のちに趣味者たちを中心に「日車ロマンスカー」と呼ばれることになる。
富山地方鉄道14770形を端緒とし、富士山麓電気鉄道3100形、長野電鉄2000系と中部地方を中心として次々にロマンスカーが登場することになる。
これら日車ロマンスカーは準モノコック構造構体、WN駆動ないし中空軸平行カルダン駆動、電空併用式ブレーキといった高性能電車の三種の神器を備えており、地方私鉄への近代化の尖兵として送り込まれた。
中でも富山地方鉄道では、前述の14770形をはじめ、14780形、10020形、14720形と数多くの日車ロマンスカーを導入。1979(昭和54)年には冷房装置付の14760形を新造するなど、日車ロマンスカーのヘビーユーザーとして君臨している。
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亜紀 「日車ロマンスカー各車の諸元を見比べているんですけど……。車体に多少の違いはあれ、足回りとか電機品は結構共通化されてます?」
ネコミミ 「電機品に目を向ければ、基本的に三菱電機か東洋電機の2社から選ぶ格好になるね。福井鉄道200系が東芝を採用していたのが例外かな」
亜紀 「三菱ならABF-108-15-EDHB制御器にMB-3032A主電動機の組み合わせが基本。東洋ならES-571制御器にTDK824-1主電動機が組み合わされる」
ネコミミ 「東洋であれば4M1Cも選べたよ。三菱だと1C8Mの例しかないかな」
亜紀 「台車は基本がNA-4Pで、空気バネのNA-303なども選べますよと」
ネコミミ 「日車東京支店であればNA-4P、日車本店ならND-109とかかなぁ。そもそもが、日車本店製の日車ロマンスカーってのがレアなんですけど」
亜紀 「そうだ。日車ってこの時期まで本店と東京支店に分かれていたんですよね。どういうテリトリー分けになってたんですか?」
ネコミミ 「私もよく分からないのだけれど、北陸地方ベースで例を挙げれば富山地鉄が東京支店、北陸鉄道が本店。長野電鉄は東京支店かな。ところで、喋りながら思い出したのだけれど、いわゆる日車標準車体の電車も東京支店のテリトリーばかりだったね。新潟交通、松本電鉄、岳南鉄道か。京福電鉄のやつも日車標準車体に挙げる人が多いけれど、あれはナニワ工機が絡んでいるから、どちらかといえば栗原電鉄とかの系譜だと思うんだよなぁ……」
亜紀 「本店だと三重交通モ5400形が思い浮かびます。さて、話が脱線してきましたわ……。ところで、NA-4Pも『電気鉄道車両用標準台車仕様書』にしたがって設計されていることが公言されていましたね」
ネコミミ 「それを言ったら、MB-3032AもTDK824-1も『電気鉄道車両用標準主電動機仕様書』のメニューに沿った性能に仕上がっているよ。両者ともに一時間定格出力75 kWで、定格回転数は三菱が1,600 rpm、東洋が2,000 rpmだね」
亜紀 「ここまで来ても私鉄経協標準電車の影がちらつくというか」
ネコミミ 「入れ子構造になっているんだよ。メーカ主導による技術の濫立と、それに対するユーザ主導の標準仕様の策定。これに乗っかって紋切形のロマンスカーを企画した日車、それを求めた地方私鉄」
亜紀 「私鉄経協標準電車はちゃんと基準(ベンチマーク)の役割を果たした――?」
ネコミミ 「そう言って差し支えないと思う。後世の研究家は企画倒れだなんだ勝手なことを言うけれど、よくよく見てみると生きているんだよ。そして、ここから先。高性能電車の基準(ベンチマーク)を知ったユーザは、改良型の新製品を求めることになる。ここで高性能でありつづけることを選ぶユーザと、経済性を求めるユーザに分かれることになる」
亜紀 「つづきは?」
ネコミミ 「また別のおはなし」